幼児教育の取り組みでも注目されるSTEAM教育とは?

現代社会では、課題を見つけ、問題解決する力が必要とされるとして、国や自治体によりその力を育むための「STEAM教育」の推進が図られています。
昔の工業社会ではたくさんのものを作るために、知識を持ち、社会に適応できる人が求められていました。電気が発明され、テレビができ、掃除機ができ、たくさんのものを作る必要がありました。そのため、各教科が独立して、教室で先生の講義を指導要録に沿って聞くという受動的な教育法が推進されていました。知識を得るための暗記重視の勉強です。
しかし、現代社会ではインターネットが普及し、たくさんの情報が溢れています。たくさんあるということはそれだけ情報が陳腐化しやすいということです。どの情報が正しくて、どの情報を得る必要があるかということを自分で考え、判断しなければなりません。
膨大な情報を使いこなし、変化に対応できることが求められるということです。そういう人を育てるためには各教科が独立する形ではなく、複数の教科を俯瞰的に学習する必要があります。
先生の話をただ聞くのではなく、自分から外へ飛び出し五感で学び、体験し、課題を探り、解決へ導いていく姿が必要です。そこで「STEAM教育」が求められるようになりました。
近年では、保育園においても「STEAM教育」を取り入れる園が増えています。
STEAM教育とは
STEAM教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をとった造語です。
理数系を中心とした教科横断的な学びのことで、課題を見つけ、問題解決する手段を身につけます。
いままでは人が解析した情報にコンピューターを通じてアクセスし、欲しい情報を得ていました。これからのソサエティ5.0*や第4次産業革命では、AIやビックデータにすべての情報が集約され、それをAIが解析し、人にフィードバックするようになります。たとえば「この人はこういう病気になるかもしれない」ということを機械が教えてくれて、予防に力を入れることができるAI診療や、日々携帯で検索している傾向を覚え、新しい情報を教えてくれるなどが挙げられます。
こういったことが進み、AIと人の境界がどんどん曖昧になっていくなかで、人ができることはなんでしょうか。それは、たくさんある情報の中から課題の本質を見極めて、どうしたら解決できるかを考え、いままでにない視点で物ごとを考えられることです。それができる人材を育成する。これがSTEAM教育の目的です。
STEAM教育と聞くと、なんとなく理数系のイメージを持たれる方は多いかと思いますが、各分野それぞれ意味があります。
Science(科学) | 自然科学を観察し、課題を模索 |
Technology(技術) | 目的のために、最適な方法を見出す |
Engineering(工学・ものづくり) | 仕組みをデザインし、新たな価値を生み出す |
Art(芸術・リベラルアーツ) | 美術、音楽、リベラルアーツ(教養:文学、倫理)新たな発見やイノベーションの源泉となる創造性を引き出す |
Mathematics(数学) | 数字的なデータから関係性を見出し論理的に表す |
理数教育であるSTEMでは客観的、分析的、再現できることが求められることに対し、それに相反する直観的、感覚的、独自性が求められるArt(芸術・リベラルアーツ)を融合することによる相乗効果で各領域を活性化させるために、STEAM教育が推進されるようになりました。
STEMでは、効率性があり、いち早く課題を見つけ解決するという短いロードマップが作られますが、それでは飛躍的なイノベーション(技術革新)は起きません。そこにArt(芸術・リベラルアーツ)の感性を磨き、取り入れることで、いままで想像し得ないものが生み出されるのではないかと期待されています。
*内閣府のホームページでは、『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)』と定義されています。(引用:Society5.0/内閣府)
幼児教育とSTEAM教育
STEAM教育で何からはじめたらいいのか迷うこともあるでしょう。
ここでは幼児教育に落とし込んだSTEAM教育の簡単な例をご紹介します。
Mathematics(数学)の分野では、具体的な数字を子どもとの会話に取り入れるという方法があります。
たとえば検温する際に、「いま熱がないね。元気だね!」と言うだけではなく、「36.5度だね。元気だね!」と口にすることで、子どもは体温のことは分からなくても、36.5度は先生が笑ってるからいいことなんだと思います。次の日も36.8度で先生が笑っていた。友だちが37.8度だったときは先生の顔が真っ青になっていた。ということを毎日繰り返すことで覚えていき、37.5度以上は危ないんだと心の中で仮説を立てることができます。
はやい段階から数字を身近にしてあげることが大切だといえるでしょう。
そして食育も立派なSTEAM教育です。料理はメニューを考えるところからできあがるまでにたくさんの過程があります。「具材の旬は?」「どの道具を使う?」など料理の過程の中にたくさんのSTEAMのエッセンスが入っています。
食べ物に感謝する、作り手に感謝するという食育に、少しSTEAMのエッセンスを加えてみることもSTEM教育の一案です。
保育園での実践例は、コドモンカレッジで開催した研修でより詳しくご紹介しています。
より学びを深めたい方へ
本記事は、コドモンカレッジで開催した研修「国が推進するSTEAM教育とは~自治体と保育園の取り組み事例から学ぶ~」より一部を抜粋して作成しております。
本研修では、STEAM教育の自治体の取り組みや事例、保育園での実践例なども紹介しております。より詳しく学びたい方は、コドモンカレッジより見逃し配信をご覧ください。
▶コドモンにログインし、動画を視聴する
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▶ログインにあたってのよくあるご質問
今後もさまざまな研修を予定しております。
直近のライブ研修一覧はこちら> https://college.codmon.com/seminar/
コドモンカレッジについて
コドモンカレッジでは、現場で働く保育者の資質や専門性向上を目的とした保育研修を毎月定期開催しており、累計5,000名以上の方にご視聴いただいております。(2023年1月時点)
当日ご参加いただけない方でも、オンライン研修の見逃し配信や、いつでも好きな時間に学べる研修動画も公開しております。
https://college.codmon.com/
〇「国が推進するSTEAM教育とは~自治体と保育園の取り組み事例から学ぶ~」講師紹介
佐賀大学 ダイバーシティ推進室 副室長 小児科医 荒木 薫先生
小児科専門医、産業医。小児科医として佐賀県内の病院を勤務した後、2017年より佐賀大学ダイバーシティ推進室の副室長、2019年より同大保健管理センター助教に着任し、大学内のダイバーシティ推進や学生へのキャリア教育・感染予防教育や健康管理等を行っている。2018年からは、県内大学や自治体と「継続・育成型STEAMガールズin SAGA」を立ち上げ、県内女子中高生や保護者や学校教員に科学や理系進路の魅力を伝えている。令和2年度佐賀さいこう表彰(女性活躍推進部門)受賞。佐賀県教育委員、有田町STEAM教育推進委員。
佐賀県有田町 町長 松尾 佳昭様
有田町長。国会議員秘書などを経て、2006年から有田町議を3期務める。2018年に有田町長に就任。
デジタル化が急速に進む状況を受け、GIGAスクール構想による小中学生一人一台のパソコン整備をいち早く行う。このデジタル化を最大限に活かし、独自性のある地域資源・文化を生かしたSTEAM教育を推進している。
全国認定こども園協会 副代表理事/ 認定こども園あかさかルンビニー園 園長 王寺 直子先生
佐賀県にある「認定こども園あかさかルンビニー園」の園長。「すべてのこどもに最善の利益を」の考えのもと、これまで幼稚園が担ってきた幼児教育と保育所が担ってきた養護をあわせもつ新たな乳幼児施設としての「こども園」に、1999年より取り組んでいる。また、全国認定こども園教会 副理事長を兼任しており、よりよいこどもの育ちと子育ての環境構成に努めている。
園長歴15年、副理事長歴13年。内閣府子ども子育て会議委員、佐賀県次世代育成支援対策地域協議会の委員のほか、佐賀県の幼保連携型認定こども園審議委員なども務めている。