特別な配慮を要する小学校生活への接続

幼保小連携について、園、小学校の双方から多く挙げられる検討事項の一つに「特別な配慮を要する子ども」に関する事項があります。これには特別支援教育に関係する情報も含まれます。
「特別な配慮を要する子ども」とは、障害があったり障害の疑いのある子どもだけではありません。海外から帰国した子ども、生活に必要な日本語の力が未熟な子ども、家庭環境に課題がある子どもなど、自立や集団参加に向けて個別の教育的ニーズがある子どものことを指します。子ども一人ひとりが持つ困難さを的確に把握し、それぞれに応じた手立てを検討し、援助・配慮をしていくことが求められています。
1.園と小学校をつなげる担い手
園と小学校が連携を図る際、その役割の担い手として以下のケースが挙げられます。
①保育者や教員など現場の専門職
②園長や校長など現場の管理職
③教育委員会や専門家チーム、特別支援教育コーディネーター、スクールソーシャルワーカーなど園と小学校をつなげる立場の資源または人材
④子ども自身
⑤家族・家庭
この他にも様々な資源や人材が、地域の実情や個別性に応じて協働し連携の援助をします。特別な配慮を特に必要としない子どもは、①や②のような現場の保育者や教員が、または管理職同士が相互に書類や口頭で申し送りをしたり、④の子ども自身が小学校生活へ興味・関心を広げ、自分で次のライフステージに対して心構えを持ちます。
一方、特別な配慮が検討される子どもの場合は、③の特別支援に関する資源や専門性を持った人材の役割が大変大きくなります。加えて、この資源や人材の有無や活動状況は地域によって異なり、具体的にどうすべきか一概には言うことができません。ただし、どの子どもであっても、⑤の家族・家庭と共に就学に向けた姿勢を持つことの大切さは変わりありません。さらに、特別な配慮を要する子どもの支援に関しては、その家族と保育者または教員間の関係性の構築そのものにも配慮を要する、と言えるのではないでしょうか。
例えば、小学校の先生が保護者と対面する機会は、保育者に比べて少ないにもかかわらず、特別な配慮を要する子どもに関しては保護者となるべく早い時期からじっくりと信頼関係を構築し始めることが望まれます。このとき、保育者からの情報提供が大きな意味を持つことになります。具体的には、保育者が保護者とどのように関係を築いてきたのか、あるいは築けなかったかなど、その過程を報告することです。これが、関係性の構築に向けた道しるべになり得ます。
また、その保護者が比較的信頼を寄せている相手は誰か、ということも大切な情報の一つです。例えば、「乳児期から保健師によく相談していた」という情報があれば、保健師も連携のツールになってもらうことが検討できます。
さらに、保育者は当該の家族の中で誰がキーパーソンだと捉えているのか、という情報も大切です。子どもの就学について、家族の中でどのように話し合われているのか、誰がどのような意見を持っているのかなど、保育者が日々の保育の中で得た子どもの家族の様子や生活背景を整理しておくことが、貴重な資料となるのです。
2.就学支援と保育者の役割
特別な配慮を要する子どもの就学に関する取り組みとして、各自治体には就学支援委員会が設置されています。
これは、自治体ごとに設置されており、教育関係者や保育関係者・医師・心理士などで構成されます。ここでは、対象児のよりよい成長を目指すために望ましい学校(学級)について、専門的見地から検討・助言を行い、園や学校現場へフィードバックされます。
検討・助言の対象児となるには保護者の申請が必要で、保育者や教員の判断だけでは対象児とはなりません。
「通常学級」「通級指導教室(言葉・情緒等)」「特別支援学級(情緒・知的)」「特別支援学校」の中の、どこでどのように教育を受けるのが適切であるかを検討し、その結果は「委員会の意見」として出されます。しかし、これはあくまでも意見なので、最終的な判断は保護者に委ねられます。この委員会は年度ごとに開催され、保護者の申請があれば、義務教育期間中、毎年検討・助言の対象児になることができます。対象が小学1年生のみに限られていないため、就学後に所属学級や学校が変更になることもあります。
就学支援委員会に用意される検討方法や判断材料は、自治体によって異なります。園児が就学する際には、知能検査や発達検査の結果、保育者が作成した書類、保育者からの口頭説明、医師の診断書や所見、子どもの様子の参観などがあります。就学支援委員会の対象となる可能性がある子どもについて、保育者は計画的に書類を作成したり、保護者に対してはやめに受診の機会を持つことを助言したりするなど、長期的に取り組むことが求められます。
保育者が作成する書類は、自治体や就学先の小学校によって書式も記載事項も様々です。書類がたくさん用意されていればよい、というわけではなく、必要な情報を端的に示すことが求められます。
主な記載事項は、生活習慣面・集団生活場面など場面ごとの子どもの様子で、文章で記録する方式やチェックシート方式などがあります。このとき「~ができないので困る」「~が心配」という保育者の思いだけではなく、「一斉に指示を出すと応じられないが、名前を呼び再度指示を出すと応じることができる」や「〇〇の活動のとき、多くの子どもは5分で終えるが、本児は10分で終える」など、いわゆる“達成・未達成の境目”がわかる記載があるとよいでしょう。
普段の保育活動で子どもたちの様子を見守り・援助している中で、今、目の前にいる子どもの育ちの状況を的確に把握しておくことが大切です。実際に就学するときには一層成長していることが期待される子どもの未来の姿は、いくら保育者と言えど的確に予測することは難しく、予想の範疇を出ることはできません。焦らず、現段階の子どもの姿を客観的に捉えることを積み重ねていきましょう。
近年では、様々な自治体や研究会で「支援シートの書き方」や「就学支援の取り組み」の報告がされていますので、調べてみるとポイントが捉えられるでしょう。また、書類記載情報としてどのようなものが求められているのかは、保育者が担当している子どもの就学先の小学校や地域の教育委員会の担当者に直接聞くと、ニーズがはっきりすると同時に園と学校の連携の機会にもなり大変有効ですので、積極的に機会を持つことが望まれます。
3.幼保小連携を強化する具体例
特別な配慮を要する子どもに関する連携の機会については、保育者と教員同士の連携や管理職同士の連携以外にも、いくつかの実践例があります。
実践例1:市町の特別支援教育コーディネーター主催の支援員研修
実際に毎日個別支援に携わっている担当者の研修、情報交換会です。支援の当事者同士が場を共有することで、様々な発見や意見交換ができます。
実践例2:教育委員会指導主事等が主催する特別支援教育コーディネーター研修
各園、各学校の特別支援教育コ-ディネーター(保育者・教員)の研修、意見交換会です。園や学校単位で取りまとめられた特別支援に関する事項を持ちより、研修を重ねます。ここでケースワークをしたり、書類の書き方研修を行うこともあります。
実践例3:特別な配慮が必要な可能性を持つ子どもの保護者による小学校訪問・面談
書類による申請、教育委員会や特別支援教育コーディネーターなどの仲介、園長・校長同士の連携など、様々なパターンがありますが、保護者が就学先として希望する学校を直接訪問し、見学をしたり教員と面接をしたりします。直接小学校を見て教員と話すことで、信頼関係の構築の一助となります。複数回訪問したり、子ども同伴のケースもあります。
実践例4:専門家による園の巡回相談
園や学校に所属していない専門家が、中立的な立場で子どもの実態を把握し、保育者と保育の在り方を話し合ったり、就学に向けた取り組みを検討します。特別支援教育コーディネーターやスクールソーシャルワーカー、医師、心理士などが担います。また、保護者面談などを通して、保育者や学校との関係性の構築のパイプ役になります。
他にも様々な地域や園・学校で、独自の取り組みがなされています。すべて実施する、というより、自分が取り組みやすい実践は何か、どのような連携なら効果が期待されるかを想定しながら、少しずつ連携のバリエーションを増やしていくことが望まれます。
4.保育者ならではの支援
ここまで、子どもに関わる大人たちの連携の在り方について述べてきましたが、保育者が忘れてはならないことを最後に整理しましょう。
一つめは「子どもの味方である」ということです。連携方法や書類にとらわれすぎると、当事者であるはずの子どもが置き去りになってしまうケースがあります。学校の都合、保護者の都合、地域の都合など、背景には様々なことがあることが推し量られますが、あくまでも、子どもがよりよく育つための支援であることを忘れないでほしいと思います。
もう一つは「保護者の味方である」ということです。例えば、特別支援教育コーディネーターや心理士から、支援学級を見学するように言われたり、受診を勧められたりすることがあります。ときにそれは、保護者が望んでいない言葉であることも少なくありません。そのようなとき、保育者には保護者の傍らにいて、共に受けとめ共に考える姿勢を持ってほしいと強く思います。保育者は、保護者にとって「子どもによりよく育ってほしい」という同じ目標を持った“同志”であるという意識を大切にしてほしいと願います。
そのためには、保育や教育、医療、子育て支援環境などに関して、どこに、どのような資源や人材があるのか、最新の地域の情報を得ておくことも大変重要になります。地域の実態、子どもや保護者の実際に沿った情報提供ができるような準備をすることで、保護者の心配や不安を一つひとつ丁寧に減らすための保育者ならではの支援ができ、よりよい連携になり得ることでしょう。保育者は医療やカウンセリングの専門家ではありません。しかし、だからこそ味方になりやすいのであり、その立場で医療等の専門機関と家庭をつなげる役割を担ってほしいと願います。
幼保小連携は、園(保育者)と小学校(教員)の連携という、継続的な縦のつながりの在り方に着目することが主軸ではありますが、家庭(保護者)も含んだ連携を図ることで、日々の生活という横断的な横のつながりも見据えた取り組みを期待したいものです。
執筆者プロフィール
名古屋柳城女子大学 准教授 菊地 篤子
⼤妻⼥子⼤学⼤学院家政学研究科児童学専攻修士課程修了後、高等学校非常勤講師(家庭科)、乳幼児健診心理相談員、教育委員会特別支援教育コーディネーターなどを経て、小田原短期大学保育学科にて教授を務める。現在は、名古屋柳城女子大学こども学部において、家庭生活と園生活の連続性や子どもを取り巻く大人たちの役割について研究を行う。また、静岡県下の教育委員会 就学支援委員として、障害の種類、程度等に応じた適切な就学に関する支援を行っている。臨床発達心理士。
著書は『ワークで学ぶ保育内容「人間関係」』(みらい)、『ワークで学ぶ保育内容 乳児保育Ⅰ・Ⅱ』(みらい)、『アクティブラーニング対応 乳児保育II: 一日の流れで考える発達と個性に応じた保育実践』(萌文書林)など著書多数。

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