「わかろうとする」ところからはじまる保護者コミュニケーション

あなたにとって、保護者はどんな存在でしょうか?
子どもの育ちをわかちあえ、保育に協力的なありがたい存在?
それとも、活動への理解がなく、要望ばかり押し付けてくるやっかいな存在??
保護者がどちらになるのか、それは保育者側次第です。
保育者は、子どもをわかろうとするのと同じように、保護者をわかろうとし、保護者の抱える不安によりそうことが大切です。
子育ては、つねに不安と隣り合わせです。安心を土台としてつながりが生まれ、つながりを実感したときに安心できるようになります。
保護者の訴える小さな不安を見過ごすことで、不安はどうしても拭えない不満になり、保育者への不信へと変わっていきます。
忙しい日々のなかで、もしかしたら取るに足らないと感じるかもしれない小さな不安。その不安をわかろうとするところから、保護者とのよいコミュニケーションははじまります。
保育者と保護者のよい関係は、ゆたかな保育につながります。子どもたちのため、よりよい保育のため、今一度、保護者対応の基本をふり返ってみましょう。
保護者対応の基本となる5つの考え方
1 保護者ー子どもー保育者 つながりあう関係を大切にする
安心できるお母さんやお父さんの元を離れた子どもたちが「園」を安心できる場と思えるようになるためには、保育者と保護者が笑顔で言葉を交わすという関わりを重ねていく必要があります。
保護者に信頼していただけるように、保育者は心を砕きます。子どもたちと同じくらい不安を感じている保護者の気持ちに寄り添いながら誠実な態度で接していきます。でも焦りは禁物です。園での様子を伝え、家庭での様子を聞く、という日々の積み重ねの先に、ゆっくり出来上がっていく「つながり」を大切にしていきましょう。
2 子どもの心もちに思いを傾けるように、保護者の心もちにも思いを傾けていく
子どもの誕生は親の誕生でもあります。初めての子育ては戸惑いの連続。さらに職場復帰と同時に始まる園生活に、せっぱつまった保護者がたくさんいるように思います。朝の支度一つをとっても、大人だけなら30分もあれば十分だったのに、子どもがいると1時間あっても足りないくらいになってしまいます。
『親になるとは、子どものそばにいて、思い通りにならない状態の中にしばらく身を置き、できるだけ穏やかな気持ちでいるという修行』ではないかと思います。時に弱音を吐きたくなっている保護者の心もちに思いを傾け、「園はあなたを応援している」という姿勢を示していきましょう。
3 「感じる」を中心におくことで関係構築の基盤をつくっていく
送り迎えの時に保護者の目に触れるところに、子どもたちの集めてきた木の実や落ち葉や、遊びの様子を写真などで掲示したりすると興味を持って見てくれます。そのような時にはそばに行って「この時○○だったんですよ」と声をかけましょう。子どもの姿を喜び合いながら語り合い、共感し合う時間を積み重ねていきましょう。
園行事に保護者が参加する際などに、自然や文化に触れる機会を設定すると「感じる」経験が得られます。「感じる」という回路が開くと保護者が笑顔になり、互いの関係も暖かなものになっていくように思います。
4 遊びのプロセスの中で育つ子どもたちの姿を伝える
自分からやってみようという意思をもって取り組んだ体験の中で育っていく子どもたちです。「自ら育とうとしている」子どもたちの育ちを支えるために、できたこと(結果)ではなく、しようとしていること(プロセス)に目を注ぎ、その様子を保護者に伝えていきましょう。その際、写真を組み込んだドキュメンテーションが効果を発揮します。
子どもたちは遊びや生活の中で育っている、ということを保護者が理解するようになると子どもたちの育ちは飛躍的に伸びていきます。実際の遊びの様子を見てもらったり、その中での育ちについて伝えていったりする取り組みを重ねることが大切です。
5 情報の発信と受信を丁寧に積み重ねていく
情報の発信においては、常に個人情報の取り扱いや基本的人権の尊重に注意します。
情報の発信では、手紙・掲示・配信など様々な方法が考えられますが、どの方法においても大事なことは、情報を確実に伝えるということ。発信の過程でミスがあると、双方にとって大きな損失になります。一人ひとりの保護者に情報が確実に届いているかの確認を必ずしましょう。
保護者からの情報の受信はとても大切です。保護者は自分の思いをすぐに発信するとは限りません。日頃から関わりを重ね信頼関係を築いていくことが大切です。声なき声に気づき、保護者からの発信をキャッチしていきましょう。
外国人幼児等が園に在籍するケースも増えてきています。言葉の通じにくい環境で困っている保護者はいないでしょうか。外国人保護者は、その国の文化などを教えてくれる存在になってくれる場合もあります。出会いを喜び関わっていくという姿勢で関わっていきましょう。
こういうとき、どうしたらいいの?ー場面別・保護者対応の心得
1 コミュニケーションが難しい保護者の対応
園全体で保育をし、保護者を支えることが大切です。
直接窓口となって向き合うのはクラス担任ですが、そこだけでは解決しないときは、主任の先生などに相談して対応を考えましょう。
クラス担任以外にも声をかけてもらうようにすると、みんなが気にかけてくれていると感じられ、保護者の心もちが変わることがあります。
ひとりだけで考えず、園全体で考えられるとよいですね。
2 子ども同士のもめごとによる負傷時の保護者対応
子ども同士のトラブルは、子どもの社会性の育ちにつながり、非常に大事なことです。もめごとを起こさないようにするというよりは、それが起きたときに、互いを傷つけあったり、噛んでしまったりなどの状態を起こさないようにするのが園の責任です。
子どもがけがをしてしまったときは、どうやって対応するか、この対応で大丈夫かなどを看護師や施設長に見てもらいましょう。
その上で、保護者へはクラス担任だけではなく、看護師からも伝えられるとよいでしょう。
子どもの思いは受け止め、傷つけあうことはできるだけ起こさないような保育を心がけつつやっていけるとよいですね。
3 毎日話しかけてくる保護者の対応
積極的に話しかけてくださる保護者の方の対応ばかりしてしまうと、遠のいてしまう保護者が出てきます。
どの子どもも、どの保護者も同等に大切という思いをもつと、ちょうどよい保護者対応の時間が生まれるのではないかなと思います。
「〇〇なので行ってきますね」などとちょうどよく切り上げられるとよいでしょう。
保護者にどうしても話したいことがある場合は、ほかの保護者もいる登降園の時間とは別で時間をつくるなど対応しましょう。
話したい保護者の思いをどう受け止めるか、どう付き合うか、先輩保育者にも相談して進められるとよいですね。
執筆者プロフィール
お茶の水女子大学 アカデミック・プロダクション
特任教授 宮里 暁美
お茶の水女子大学家政学部卒業後、国公立幼稚園教諭,お茶の水女子大学附属幼稚園副園長,十文字学園女子大学 幼児教育学科教授を経て、母校であるお茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所の教授を務める。また、平成28年4月開園した文京区立お茶の水女子大学こども園園長として5年間園運営に携わり、「つながる保育」を主軸に置いた教育・保育活動を展開する。令和3年4月よりお茶の水女子大学アカデミック・プロダクション特任教授として保育マネジメント研究に取り組む。「環境による教育」「幼小接続期」「子育て支援」をキーワードに保育学全般を研究。
著書は『耳をすまして目をこらす』(赤ちゃんとママ社)、『思いをつなぐ 保育の環境構成0・1歳児編 2・3歳児編 4・5歳児編』(中央法規出版)など、保育や子育てに関する著作多数。実践に基づいた発信を重ねている。

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