年度切替え「なに」を「どう」引き継ぐ?
~新担任への引継ぎのコツと目標設定~

3月が近づくと、5歳児さんの担任は「いよいよ就学、自信をもって小学校に通って欲しいな」と願い、卒園までの日々を子どもたちとどう過ごそうか、ワクワクドキドキします。
2歳児さんの担任は「4月から幼児組になる!生活や遊びがもっと充実して、たくさん遊ぶ元気な3歳児さんになって欲しい」と子どもたちの育ちを見通して、張り切ります。
今のクラスの担任として過ごしたこの一年間、保育者の皆さんはどんな保育を目指してきたのでしょうか?そしてどのような期待と希望を持って新しい年度を迎えるのでしょうか?
皆さんの保育者としての想いと、このクラスで目指していたことを、次の担任にうまくバトンタッチできるように「引き継ぎのコツと目標設定」についてお伝えします。
まず、「なに」を「どう」引き継ぐ?
園には、全体的な計画があり、保育の目的・目標・方法等を職員全員で共有して保育に取り組んでいます。ですから、基本的な引き継ぎではそれらを基に保育を振り返り、新しく目標を立てることになります。
これが園全体のPDCAサイクルとして、何度もくり返すことでよりよい保育になっていきます。園全体で自己評価し、次の年度の全体的な計画を立てます。
乳児さんたちの担任チームや幼児さんたちの担任チームで保育内容を語り、計画を引き継いでいくという事もあるかもしれません。
自分たちの保育を語り合いながら、保育の質を高める対話の時間がたくさんあるといいですね。
そして園全体の振り返りと目標設定ができたら、次は、個別にクラスを引き継いでいくことになります。そのような時に、新任の方や経験年数の浅い方にとって、「なにをどのように伝えるとよいのか」は、なかなか焦点化しにくいと思われます。
クラスの引き継ぎ
(1)自分の保育を語る
基本的な引き継ぎが済んだら、担任としての<自分>の話、つまり「どんなクラスを作りたいと思ったか」「何を大事にしてきたか」を伝えましょう。
一年間子どもたちを見てきた保育者であればこそ、一人ひとりの子どもについて話したくなるところでしょうが、まずは担任としての自分の話をするとよい、と思います。
もちろん園の中で一緒に保育をしてきた仲間の先生ですから、他の保育士さんも「このクラスは○○を大事にしているな」といろいろとご存じなことはあると思うのですが、それでも自分の言葉にして伝えることは重要です。
保育者として、クラス担任としての「私」を語りましょう。
例えば、子どもたちへの思いとして、「天気をみながら外に飛び出し体を一杯動かして欲しかった」とか、「散歩に行って風や雲や水、草や木など自然に沢山触れて欲しかった」とか、色々なことに興味を持ちなんでも知りたいと思って欲しい、そのために、<私>は、一緒に体を動かした、自分の気持ちを言葉で言えるように子どもとたくさん話した、時期によりテーマを決めて関係する絵本を毎日読んだ、等伝えて下さい。
実現した事、まだ半ばなことがあるかもしれませんが、自分の保育について語りましょう。
部屋の環境等で工夫した事、歌った歌、読んだ絵本などの記録があれば、あわせて共有するとよいでしょう。
(2)子どもたちのことを伝える
はじめにクラス全体の雰囲気を伝えます。
例えば、落ち着いている、にぎやか、それぞれ個性が強いが団結もする、友達同士よく声をかける みんなで遊ぶことを楽しんでいる等です。
生き物が好き、絵が好き、製作活動では自由な発想が多い等も、保育の中身を考える時に役立ちます。
次に、集団活動への取り組み方を伝えます。
例えば、個の活動が好き、少人数の活動だと盛り上がる、全体の活動にメリハリがある、新しいことにすぐ飛びつく、新しいことには慎重等です。
また、興味関心にばらつきがある、異年齢の子ども達とよく遊ぶ等、クラスの雰囲気は外からみても感じ取れますが、言葉にしてみる必要があります。良い機会ですので、外から見た時には、どのように見えていたのか尋ねるといいかもしれません。
(3)記録を基に活動を引き継ぐ
クラス便りや写真など、物を媒介にして記録等を見ながら、どのような活動をしてきて、どのような子どもの姿があったか、伝えましょう。記録など、物があると、活動の目的や経過、結果などをイメージしやすくなります。
(4)一人ひとりの子どもについて伝えよう
この子ならではの「Aちゃんあるある」があると記憶に残りやすいです。
例えば、Aちゃんは座って取り組むことが苦手、でも、片付けは得意、給食が好きで、なんでも食べる。
Bちゃんは、虫が好きで、図鑑に夢中、何でもつかまえるので要注意等、連絡帳や児童票などを見直しながら伝えると子どもの全体像が見えてきます。
伝え方のコツは、「変化(成長)が分かるように」です。
例えば、最初はみんなの前で恥ずかしそうにしていたが、やることが分かってくると給食のあいさつでは、はりきってセリフを言うようになった。「大きな声だったね」など、具体的に褒めるようにしていた、などです。記録を見なおすと、成長したことの実感が伝わり、嬉しいものです。
また、幼児さんの場合は、個のことのみではなく、「関係」にも注目しましょう。友達から慕われている。頼りにされている等、友達関係・対人関係の特色が伝えるとよいでしょう。
そして、保育の引き継ぎの情報としては、得意なこと、まだ挑戦中なこと、援助が必要なこと等が伝わると子どもとの付き合い方の役に立ちますね。
得意なことを見つける時には、運動・手先のこと・話すこと・聞くこと・友達関係・当番活動・イメージを持ち発信する力等。
苦手なことでは、まだ挑戦中のこと、援助が必要なことを伝えると同時に、苦手なことにどう向き合っているかも援助や関わりのヒントになります。
(5)乳児組から幼児組へ
2歳児クラスから3歳児クラスへの引き継ぎでは、子どもが生活や遊びを自分で構成できるかどうか、という視点で話をしましょう。
基本的な生活習慣について、自力でできること(自立している)、援助すればできること、まだできそうもないこと(無理にさせない)が分かると、一人ひとりの発達の様子が分かり、発達の過程のどこに働きかけたらよいか、分かりやすいでしょう。
(6)保護者について
保護者について伝えることは、新しい担任にとって先入観になるかもしれないことを念頭に置きつつ、こういう関係性を持つとうまくいったというよい例を伝えましょう。
「連絡帳には~が書いていることが多い」とか、「実際に話がしやすいのは、帰りのお迎えの時」とか、あるいは、子どもの様子をどう伝えるとよいのか、等が引き継げると失敗は少ないです。
園からは良かれと思って提案したことでも、それに対して「自分ができていないからだ」と思い込んでしまう保護者もいます。
私は、よかったことや子どもの楽しかったことは担任から、注意事や気にして欲しいことは園長先生や主任から保護者に伝えるのがよいのではと思っています。
引き継ぎからの目標設定
保育の全体的な計画、指導計画等は、しっかり見直しましょう。そのことを基に自分たちの保育を展開することが基本になります。
常に、「この期には、どんなねらいがあるか」に立ち返りながら、保育をします。
とはいうものの、ねらいを具体的に展開していく時には、「どんな活動を、どんな方法で同のようにするのか」を考える必要があり、その時に頭に浮かべるのが「引き継がれた内容」のあれこれです。
この目標設定で忘れてはいけないことは、「子どもが主語」だということです。
一方で、私は、目標の基本には「私が~したい」「私は保育の中で○○を大切にしたい」という「自分の保育」があると思います。
ぜひ、自分の保育を充実させ楽しむために、毎日歌う、毎日絵本、毎日子どもの記録等、具体的な目標設定をして下さい。
執筆者プロフィール
小田原短期大学 保育学科特任教授 乳幼児研究所所長 宮川萬寿美
お茶の⽔⼥⼦⼤学 ⼤学院 家政学研究科卒業。小田原短期大学で子どもの発達や保育に関する教育・研究に携わり、2016年以降、小田原短期⼤学 乳幼児研究所所⻑を兼任。
現在では、神奈川県県西地域の子育てや子どもの発達支援に関わる専門職の勉強会やキャリアアップ研修などの講師を務める。また、保育園等への巡回指導員としても活動を展開している。
専門は「保育実践」「発達支援」をキーワードに保育学・児童学全般を研究。著書は『保育の計画と評価』(萌⽂書林)、『保育する⼒』(ミネルヴァ書房)など、保育に関する著作多数。

宮川萬寿美先生はライブ研修「スムーズな年度切替をするには?~乳児(0~2歳)理解を深めよう~」と「スムーズな年度切替をするには?~幼児(3~5歳)理解を深めよう~」に登壇されました。
ポイントをそれぞれ5分にまとめたアーカイブ動画は下記よりご視聴ください。
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