保育士のキャリアアップ研修とは?

子どもやその保護者たちの子育てを取り巻く環境が大きく変化し、保育施設や保育士に求められる役割も多様化しています。保育士には日常の保育はもとより、さらに高度な専門性が求められるようになっているのが現状です。
保育士としての日々の業務に加え、研修機会の充実によってその専門性を向上させていくことが重要となっています。そこで注目されているのが「キャリアアップ研修」です。
今回は保育士のキャリアアップ研修の内容を解説していきます。
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キャリアアップ研修とは?
保育士のキャリアアップ研修の概要
保育業界の抱える課題として、保育士不足・滞在保育士の多さなどがあげられます。その理由のひとつとして、主任などの役職が就いていない一般保育士の勤続年数が短く、専門性を高める以前に離職してしまう保育士が多いという問題があります。
この課題を解決するために、厚生労働省により2015年に「処遇改善加算Ⅰ」が、2017年に「処遇改善加算Ⅱ」が新設されました。保育士の給与の加算率アップと、キャリアアップ研修制度による新たなキャリアパス構築を目指す取り組みです。
「処遇改善加算Ⅱ」では、園長や主任という従来の役職についていない新任~中堅保育士のための新たな役職を設けています。この役職に就くための研修がキャリアアップ研修です。
研修分野や対象者を細分化し、現在のキャリアにフィットした研修を行うことで、職務内容に応じた専門性や保育技術の向上が可能になります。
新たな役職
「処遇改善加算Ⅱ」により、3つの役職が新設されました。
それぞれの役職と就任の要件については以下のとおりです。
職務分野別リーダー
保育士が最初に就くことのできる役職です。担当する専門分野のリーダーとしてほかの保育士への助言やサポートを行います。
➀経験年数おおむね3年以上
②「乳児保育」「幼児教育」「障害児保育」「食育・アレルギー」「保健衛生・安全対策」「保護者支援・子育て支援」いずれかの分野を担当すること
③担当する職務分野の研修を修了していること
④職務分野別リーダーとしての発令
専門リーダー
職務分野別リーダーを経て、さらに専門性を高めた保育士が就く役職です。保育現場のスペシャリストとして、ほかの保育士への助言やサポートを行います。
➀経験年数おおむね7年以上
②職務分野別リーダーを経験
③4分野以上の研修を修了していること
④専門リーダーとしての発令
副主任保育士
主任保育士の補佐的役割を担う役職です。管理職として後輩を育成する立場となるため、マネジメント研修が必須となります。
➀経験年数おおむね7年以上
②職務分野別リーダーを経験
③3分野以上+マネジメント研修を修了していること
④副主任保育士等としての発令
保育士のキャリアアップ研修の分野別の内容
(1)専門分野別研修
保育現場で専門性の向上が求められている6つの分野について学びます。
キャリアアップ研修で共通する目的は、ほかの保育士に各分野についての適切な助言および指導ができる実践的な能力を身につけていくことです。
①乳児保育
0~3歳未満の子どもを対象とした、「乳児保育」に関する理解を深める研修です。
乳児保育の意義や役割、個々の子どもの成長にあった関わりや環境構成、指導計画、記録および評価について学びます。
関連動画:研修動画>「乳児保育」

②幼児教育
保育における「幼児教育」に関する理解を深める研修です。
個々の子どもの発達や状態に応じた保育内容や環境構成の手立て、指導計画や記録および評価の捉え方などを学びます。また、小学校との円滑な接続や保育所児童保育要録の書き方なども内容に含まれます。
関連動画:研修動画>「幼児教育」

③障害児保育
「障害」について理解を深め、障害児保育で必要な合理的配慮、支援の方法について学ぶ研修です。
障がい児を含めたなかでの保育環境の工夫、個々の発達状態に応じた保育や援助を行う力を養います。家庭への援助や関係機関との連携、指導計画や記録および評価を適切に行えるようにします。
関連動画:研修動画>「発達支援」

④食育・アレルギー対応
「食育・アレルギー」に対する理解を深め、適切な食育の計画やアレルギーの対応ができる力や専門性を高めるための研修です。
栄養・アレルギー疾患に関する基礎知識を学ぶことで、安全な食育計画の作成と活用が可能になります。また保育施設における食事の提供ガイドラインおよび保育施設におけるアレルギー対応ガイドラインについて学びます。
関連動画:研修動画>「食育・アレルギー対応」

⑤保健衛生・安全対策
子どもたちが安全に過ごすための「保健衛生・安全対策」に関する知識や技術を学ぶ研修です。
保健計画の作成と活用や、事故防止および健康安全管理の方法、感染症対策ガイドラインなどを学びます。また、保育の場において血液を介して感染する病気を防止するためのガイドライン、教育・保育施設などにおける事故防止および事故発生時の対応のためのガイドラインについての理解を深め、日常からの安全対策に対する意識を持つことを目指します。
関連動画:研修動画>「保健衛生・安全対策」


⑥保護者支援・子育て支援
保育施設に求められている「保護者支援・子育て支援」について学ぶ研修です。
保護者および地域への開かれた子育て支援の意義を考えながら、適切な支援を行う力を養います。保護者に対する相談援助の具体的な技法や、地域における子育て支援、虐待予防や子どもの貧困について学び、専門性を高めます。また関係機関との連携を図り、地域資源の活用を行うことができるよう地域への理解も深めます。
関連動画:研修動画>「保護者支援・子育て支援」



(2)マネジメント研修
主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う立場に求められる役割と知識を理解するための研修です。
ミドルリーダーとして保育園の円滑な運営に必要なマネジメントを理解し、リーダーシップを持って保育の質を高め、保育園の運営にかかわる力を養います。現場の課題に基づいた組織目標の設定や、今後を見据えた人材育成の知識と技術を学ぶほか、職場を客観的に見る視点を培い、働きやすい環境づくりができるマネージメントリーダーの能力を身につけます。

(3)保育実践研修
子どもに対する理解を深め、基本的な保育における環境構成や子どもとのかかわり方を学ぶ研修です。
身体を使った遊びや音楽、ものを使った遊びなど、保育士が主体的にさまざまな遊びと環境を通じて、保育を展開させるために必要な能力を身につけます。
キャリアアップ研修の受講対象者
【専門分野別研修】
保育施設の保育現場において、各専門分野に関してリーダー的な役割を担う方が対象です。(当該役割を担うことが見込まれる方も含まれます。)
【マネジメント研修】
各分野におけるリーダー的な役割を担う者としての経験があり、主任保育士の下でミドルリーダーの役割を担う方が対象です。(当該役割を担うことが見込まれる方も含まれます。)
【保育実践研修】
保育所などの保育現場における実習経験の少ない方や、滞在保育士などの長期間保育現場で保育を行っていない方が対象です。
処遇改善等加算について
処遇改善等加算とはこの記事の冒頭で紹介したとおり、国が保育士確保を目的に施行した取り組みです。
保育士の年収は、全職種の年収の平均額よりもおよそ149万円も低いことが分かっています。ハードワークであるにのかかわらず賃金が安い保育士は早期離職しやすい傾向にあります。
この保育士が離職しやすい現状を踏まえ、2つの処遇改善をとおし保育士確保を目的として打ち立てられたのが処遇改善等加算です。
給与の改善だけではなく給料が安定することによって、保育士の離職を防ぐことを目的としています。処遇改善等加算には2つの仕組みがあります。
【処遇改善加算等Ⅰ】
保育士の処遇改善加算等Ⅰは、①基礎分②賃金改善要件分③キャリアパス要件分の3つの要素によって賃金が支払われます。
パートや派遣保育士といった非常勤職員にも適用される制度です。
①基礎分
平均経験年数によって賃金が上がる仕組みとなり、給料の2%から最大12%までが加算されます。
②賃金改善要件分
以下のように経験年数により支払われる仕組みとなっています。
・平均経験年数が11年未満の場合…給料の一律6%
・平均経験年数が11年以上の場合…給料の一律7%
賃金改善計画と、その実施報告が必要になってきます。
③キャリアパス要件分
賃金改善要件分のうちの2%がキャリアパス分となります。以下の要件を満たさない場合は賃金改善要件分から2%減額となるので注意が必要です。
・役職や職務内容に応じた勤務条件と賃金システムの設定
・職員の資質向上のための具体的な計画
・計画に沿った研修の実施や研修機会の確保、職員への周知
【処遇改善加算等Ⅱ】
処遇改善等加算Ⅱは、キャリアアップの体制を整え、さらに賃金の改善を行い保育士の確保を目指すことを目的としています。加算対象となるためにキャリアアップ研修を受講して役職に就くには、保育士としておおむね3年以上の経験が必要です。
役職によって以下の金額が国から各施設に支給されます。そこからどのように職員に分配するかは施設の規定で異なりますので注意が必要です。
・職務分野別リーダー 月額5千円
・専門リーダー 月額4万円
・副主任保育士 月額4万円
まとめ
キャリアアップ研修は受講することで保育士のスキルアップにつながるだけでなく、処遇改善という給与・キャリアに直接影響する唯一の研修です。
分野別の研修内容は、現場で活かせる知識や技術を身につけることが可能なだけでなく、近年の保育業界における課題も含んでいます。
日々多忙な業務のなかですが、こうした制度を理解し活用することで、職員の定着につながり、保育の質の高めることが可能です。
キャリアアップ研修を実施する自治体や企業は増えています。勤める園の現状と自身の課題に合った研修に参加するとよいでしょう。
※記事内の「保育園」は、認定こども園や幼稚園なども含みます
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